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鬱蒼と生い茂る木々。青々とした緑が作り出した自然の天蓋から漏れる光が、なんとも神秘的な雰囲気を醸し出す。
しかしそんな物を楽しむ余裕は俺にはない。
右腕は骨が砕け、剣を握るどころか動かす事すらままならず、腹部は防刃・防弾外套が無惨に引き裂かれ、皮膚を通り越してあまりお目にかかれない内臓すら覗く始末。
既に痛みの感覚はあまり無い。それどころか手足の感覚すら失いかけている。背を預けた大木が無ければ、立っている事すら出来ないかもしれない。
こうしている間にも足下の土は俺の血を吸って黒く変色していく。
腹の傷を隠すように、左手を傷口に押し付ける。生温かいぬめり気を帯びた血がその手を染めた。
自分を落ち着けるために深く息を吸い、傷口に乗せた手に集中する。手が淡い光を放ち、その下の傷を癒やし始める。
せめて内臓がこぼれ落ちない程度には傷を塞いでおきたい。動いた瞬間に腹圧で中身をぶちまけたりしたら目も当てられない。
その時、背後で何かの気配を感じた気がした。
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