仮初めの平穏

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しかし、そんな俺の思いを無視して体は限界を訴える。 少し歩いただけで足から力が抜けて膝から崩れ落ちる。気力を振り絞って立ち上がりなんとか足を進めるが、またすぐに膝を付く。 それを繰り返す度に少しずつ、歩く歩数は減っていった。 十歩が八歩に。八歩が五歩に。五歩が三歩に。 そしてとうとう、立ち上がったまま足が進まなくなった。 雨でぬかるんだ地面が、俺の足を捉えて離さない。葉を叩く激しい雨音は、立ち尽くすしかできない俺への大音声の野次のようだ。 森が、自然が、この世界の全てが敵になったように思えた。 でもそんなものに負けてたまるか。俺は自分の意志で定められた未来を変えると決めた。全てが敵だと言うのなら、その全ての敵を打ち壊して先に進む。 こんなところで、立ち止まっている暇はない。 俺は絶対に、あんな未来には屈しない。 ぬかるんだ地面からあっさりと足が抜ける。まるでぬかるみが俺の決意の強さに気圧され、その抵抗を弱めたように。
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