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ほら、何も難しい事はない。
この世界の全てが俺を敵視すると言うのなら、俺も同じ様に全てを敵と思えばいいだけ。
甘えを捨てれば、何の問題もなかった。それに気付くのが、少し遅かっただけ。
大丈夫。俺は気付けた。まだ、手遅れにはならない。
頭の中で何度もそれを反芻しながら、ぬかるみから解放された足で一歩を踏み出す。やはりそこもぬかるんではいたが、決意をし、甘えを捨てた俺の前に、そんな些細な事は何の障害にもならない。
いや、ならない筈だった。
次の瞬間には濁った水溜まりが目の前に迫っていた。動かない体でなんとか身をよじり、肩と頬から地面に倒れた。
泥水が跳ね、雨と一緒に降り注ぐ。大地と雨の、手痛すぎる抱擁だった。
俺が倒れた水溜まりは案外深さがあるらしく、顔の半分近くが水の下にある。半開きだった口にもそれが流れ込み、呼吸をする度に肺が土の匂いで満たされた。
起き上がろうにも、もう指一本満足に動かせない。
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