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海の底で願ってた
陸に暮らす人々が羨ましかった
水がなければ生きていけない
浜辺から陸を眺めてた
近くに行く事は出来ないから
せめて歌声だけでも届けよう
気付かれてはならないけれど
歌声だけでも気付いて貰える様に
私は一人の男に恋をした
毎日の様に姿を見に行った
許されない恋と知りながら
声を掛けられ笑顔で答える
頬を染めながら見つめる人々
あの人の元へ行けたら
一緒に笑いあえたら
どんなに願っても叶わない
そう思ってた
私は声を失った
変わりに足を手に入れた
あの人に会える
それしか思いつかなかった
初めて目が合った
初めて声を聞いた
でも私は声が出ない…
あの人は声の出ない私に
優しく笑い掛けてくれた
まるで夢の様に幸せだった
あの人が結婚をする
相手はとても優しく美しい娘
私は泣いた
出ない声を張り上げて
結婚式の夜
悪魔が私に囁いた
ナイフを突き立てれば
平穏な海へ帰れる
あの人にナイフを突き立てろ
朝日が美しく水に反射する
あの人にナイフを突き立てるなら
私はあの人の前から消えましょう
どうか幸せに
ただ一人の愛しい人
日が昇りきり
私は消えてなくなった
後悔はしない
短い間でも幸せでした
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