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―3月21日(日)
「……まだ来てないんだ」
ジャリっと地面を鳴らしながら歩いていたわたし――楠木 明(クスノキ アカリ)は、学校のテニスコートに着いてから、思わずそう呟いた。
近くの時計台――それ程豪華な物じゃないけれど――を見れば、集合時間になるまでにまだ余裕があった。
……少し、早く来過ぎたみたい。
「あれ?明?」
ききっと二つのブレーキ音が聞こえた。
同時によく耳にする声も聞こえて、勢いよく振り返る。
「あ……香奈、優香ちゃん!!」
二人の友達の姿に、わたしのテンションのメーターが一気に右に振れた。
月屋 香奈(ツキヤ カナ)と上沢 優香(カミザワ ユウカ)は、そんなわたしの調子に驚いたような、少し苦笑いに近い笑顔を浮かべた。
それに気付きながらも、やはり嬉しさは隠しきれないから、そのまま二人の側に駆け寄った。
「良かった。早く来過ぎたかもって少し不安になってた」
「何それ?時計見ないで家出てきたのか?」
苦笑いから、今度は呆れ顔……だけど優しい笑みを浮かべる香奈。
その笑顔は一年生の頃と比べると、心なしか大人っぽくなった気がする。
横でクスクスと笑う優香ちゃんも、小さく笑うという笑い方は変わっていない。
けれどそれでもやはり、どこか昔とは違っていて。
「ちゃんと見たけど……あ、うちの時計五分早くしてあったんだった」
わたしも、少しだけ変わったような錯覚に陥ってしまう。
きっとそんなことはないんだろうけど。
わたしは相変わらず、子供っぽいんだろうけど……。
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