最年長

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―4月7日(水) 通い慣れた並木道一杯に、敷き詰められている桜の花弁。 この景色を見るのは、毎年のことなのだけれど、妙に新鮮だった。 何故なら今日は、中学校生活最後の入学式兼始業式である日なのだから。 『今日は三人で学校に行かない?折角の将の晴れ姿なんだから』 先程、家を出る前に聞こえた母さんの声を思い出す。 季節は流れて、わたしは中学三年生。 兄の楠木 颯太(クスノキ ソウタ)は高校三年生。 弟の楠木 将(クスノキ ショウ)は中学一年生に……。 もうそんなにも月日は流れたのかと、驚かされる。 三人で学校に行きたがる母さんをやんわり無視しながら、今こうして歩く並木道。 毎年この日の気候は穏やかで、春風はそよそよと気持ちが良く、日差しは柔らかい。 「っ……はぁ」 ただ心地よい風が運んでくる花粉だけは、毎年思うことなのだが、本当にどうにかならないのだろうか。 大きなくしゃみをするのは恥ずかしい。 けど、今みたいに出かけたくしゃみが収まってしまうのも、中々恥ずかしい。 ……それも、人に見られていたのなら尚更。 「明、おはよー。今くしゃみしたでしょ?」 自転車のブレーキ音と共に、よく耳にする声が聞こえた。 一瞬ブレーキ音に驚いたけれど、その声が聞こえたことで、驚きは消えていった。  
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