3352人が本棚に入れています
本棚に追加
それにもし虫であるならば大きさが異常だ。
目算(とは言え、横目で見ているから不確かだが)で、15cmほどはあるのだから、もし虫であったら私も大暴れするしかない。
しかしこのままでは埒が明かない。
「虫じゃあ、ありませんように」
などと、完全に怖気付きながらも、ぱっとそちらを振り返ったのだが、
(何もいないじゃないか)
と、肩透かしを食らってしまった。
先ほどまでは確かに居たように思えた「黒い物体」は、その影も形も残していなかった。
すこし穴の開いた襖が閉じられているだけである。
あまりにも唐突な喪失であって、気持ち悪かったが、追求しても矢張り怖いので、私は特に何事もなかったかのように別の本を読み始めた。
わざとらしく、
「次はこっちでも読むかなあ」
と声をあげたのも、今思えば可笑しなことである。
最初のコメントを投稿しよう!