黒い物体

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それにもし虫であるならば大きさが異常だ。 目算(とは言え、横目で見ているから不確かだが)で、15cmほどはあるのだから、もし虫であったら私も大暴れするしかない。 しかしこのままでは埒が明かない。 「虫じゃあ、ありませんように」 などと、完全に怖気付きながらも、ぱっとそちらを振り返ったのだが、 (何もいないじゃないか) と、肩透かしを食らってしまった。 先ほどまでは確かに居たように思えた「黒い物体」は、その影も形も残していなかった。 すこし穴の開いた襖が閉じられているだけである。 あまりにも唐突な喪失であって、気持ち悪かったが、追求しても矢張り怖いので、私は特に何事もなかったかのように別の本を読み始めた。 わざとらしく、 「次はこっちでも読むかなあ」 と声をあげたのも、今思えば可笑しなことである。
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