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それから30分ほど経ってか、黙々と頁をめくっていると、先の黒い物体がまたも視界の隅に現れたのだ。
やはり虫のように蠢き、確かな存在感がある。
今度はすぐさま振り返ったが、やはり何も居ない。
それがその日だけでも3回はあったと記憶している。
目の具合か、それとも頭でもおかしくなったのか。
前者ならば不安だけですむが、正直、この手の話はまず後者を疑われるものだ。
それに精神的なものだろうから、外傷判断も付かない。
幸いなことに、目の方はコンタクトの定期検査で、眼科の診断を受ける機会があったのだが、さしたる問題は無かった。
ならば残る可能性は後者なのだが、それは考えないようにしようと思う。
鼬ごっこになるのは目に見えているのだ。
そうして何日か過ごしている内に、やはり襖に黒い物体が蠢くことが時々だがあった。
もう前ほどに気にしなくなり、
「またか」
程度に流せるようになった。
しかしそれが逆に災いした。
先日気付いたのだが、冷静に横目で観察してみると、その黒い物体が、虫ではなく「髪」のような気がしてきたのである。
横目で襖を見てはいけない。
私の部屋のタブーである。
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