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「今朝聞いた話なんだけど、うちのクラスで吹奏楽部の子がいてー、んで、その子がさ、見たんだって」
「…………」
由貴は雰囲気を出そうとしているのか、声を潜めながら話をする。しかし、現在、太陽が空の真ん中で爛々と輝く真っ昼間。雰囲気も何もなかった。それでも由貴はめげずに話をする。竜はどうでも良さそうに前を見て歩いている。
由貴は一端話を区切ると、真剣な顔をして、こう言った。
「誰もいない教室でピアノが鳴ってるのを」
「それ見たっつーより、聞いたんじゃねえの」
「へ? ああ、確かにそうかも……って、そうじゃなアアーーい!! ポイント!! ポイントがすんげズレてる!! 的を得てねえよ!!」
内容よりも言い方に注目した竜に由貴は激しくノリツッコミをした。竜は鬱陶しそうな表情で由貴を見ると「うるせえよ」と後頭部を叩いた。
「いて!」
「それのどこがおもしれーんだよ。ありきたりな話じゃねえか」
くだらねえ、と吐き捨てた竜に由貴は叩かれた後頭部を右手で撫でながら、そうだけどさーと呟いた。
「こんな噂広まんの初めてじゃん。ドラマみたいで、なんかおもしろそーじゃね?」
「全然」
「えー。つまんねえヤツだなー」
せっかく面白そうな事が起こってるかもしんねえのに、と由貴は唇を尖らせて拗ねたように呟いた。竜はそんな由貴を一瞥すると、両手をスラックスのポケットに入れたまま気だるそうに歩いた。
「なんかさー、噂だと、七不思議って一つ起こると全部起きるまで終わんねえんだって」
「あっそ」
「あーあ。この頑固者竜ちんをビビらせるよーなの起こってくんねえかなー」
ふてくされたように、そう呟いた由貴を竜は呆れたような表情で見た。
太陽がアスファルトに照りつけ、二人の額にはうっすら汗が浮かんでいる。風も無い、暑い昼の一時。
丁度、校舎の裏にある桜の傍をコンクリートの壁を境に二人は通り過ぎる。ざわざわと葉桜が枝を揺らした。
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