イノコリ

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 教室を出た竜は、ゆったりとした足取りで廊下を進み、隣の教室へと向かった。いつもは由貴がバカみたいな大きな声で竜のクラスにやってくるのに、今日は立場が入れ替わっていた。  竜は、二年A組の教室の後ろ側のドアから教室内を覗くと、近くにいた女子生徒に声をかけた。 「なあ、ちょっといい」 「えー、なに……って、ふ、藤嶋君!?」  女子生徒は竜の声にダルそうな表情で振り返ったが、その声が竜のものであると理解すると、頬を染めて、慌てて身嗜みを整えた。その行動に竜は怪訝な表情を見せながら、口を開いた。 「岡本由貴、いる?」 「え、あ、岡本君? 岡本君なら、あそこの席にいるよ」  女子生徒が指差した場所には席に座り、頭を抱えて、うんうんと悩んでいる由貴がいた。竜はその様子に、何やってんだあのバカ、と思いながら、教室内へと足を進めた。 「ありがと」 「う、ううん」  竜のそっけない言葉に女子生徒は、うっとりとした表情を浮かべて、その後ろ姿を眺めていた。  竜は教室内の視線、主に女子、を集めながら、由貴の席まで向かうとその横に立って、由貴の手元を覗いた。 「何やってんの、お前」 「……!! 竜ちん!!」  由貴は竜の声に反応して勢いよく顔を上げると、情けない表情で竜を見上げた。
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