イノコリ

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 竜は鞄の中から一冊の文庫本を取り出すと、視線を手元から由貴に向けて、口を開いた。 「図書室行って来るわ、本返してくる」 「本? あー、竜ちん、最近よく読んでたよねえ。アイアイ、了解でーす」  由貴が竜の言葉に頷くと、竜は由貴に背を向けて一冊の文庫本を手に図書館へと向かうべく、教室を出て行った。  由貴はメロンパンを一口かじって、ゴクリと飲み込むと、しみじみと呟いた。 「授業以外で小説とか読む気しねえしなー、さすが竜ちん」  出来が違うよねー、と暢気なことを口にすると、また視線を手元へと戻した。  何も知らずに教室で数学のプリントを解く由貴。  図書室へと悠々とした態度で向かっていく竜。  二人はまだ知らない。  今の日常が姿を変えることを。
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