スガタヲカエタ

2/6
1054人が本棚に入れています
本棚に追加
/76ページ
 パタンパタン、静かな廊下に竜の足音が響いている。窓からは、青々とした空に白い雲、アスファルトに照りつける太陽、夏の午後の風景が見えていた。  竜は視線を窓の外に向けたまま廊下を悠々とした足取りで進み、目的地である図書室へと向かった。  竜は図書室へ行くまでに英語教師の神崎夏子(かんざきなつこ)と学校に残っていたらしい一年生数人、二年生数人とすれ違った。三年生はまだ補習中なのであろう。  しばらくして、図書室に到着すると、ドアに手をかけ、中へと足を進めた。竜は図書室内に視線を巡らせると、窓際の席に一人の女子生徒が座って本を読んでいるだけであった。  竜はその女子生徒から視線を外すと、視線を貸し出しのカウンターへと向けた。いつもなら司書か図書委員がいるはずだが、そこには誰もいなかった。  奥にある部屋を覗いてみるが、どうやらそこにも不在のようであった。  竜は持っていた文庫本をカウンターの上に置くと、右手で髪をかき混ぜて、溜め息をついた。これでは借りることも返すことも出来ない。  どうするか、と考えた後、竜は後ろを振り返って、窓際にいる女子生徒に声をかけた。  女子生徒は肩までのストレートの黒髪に、やや長めの前髪。俯いているせいで顔を見ることは出来なかった。 「なあ、図書委員どこいったか知らねえ?」 「…………」  女子生徒は竜の声に肩を小さく揺らすと、俯いたまま首を横に振った。竜はこういう反応をされることに慣れているのか、あっそう、と返事をすると溜め息をついた。
/76ページ

最初のコメントを投稿しよう!