1054人が本棚に入れています
本棚に追加
/76ページ
フンフーン、と由貴は何の曲かわからない鼻歌を歌いながら軽い足取りで廊下を歩き、竜は文庫本をスラックスの後ろポケットに入れると、ダルそうに足を進めていた。
鞄を取りに戻るために二年A組の教室へと向かう。
図書室から教室まで向かう間、誰ともすれ違うことはなかった。
廊下に響く音は二人分の足音のみ。やけに静かな雰囲気。いつもの賑やかな廊下とは一変した姿を見せていた。
由貴は両手を頭の後ろで組むと、鼻歌をやめて、竜に声をかけた。
「ねー、竜ちーん」
「なんだよ」
「あのさー、ちょっと疑問なんだけどもね」
「んだよ、さっさと言え」
「んー、気のせいかもしんねえけど……
図書室から教室までこんなに遠かったっけ?」
由貴の言葉に竜は足を止めた。由貴も同じく足を止める。
図書室から教室まで、どんなにゆっくり行っても15分あれば到着するはず。それなのに、由貴と竜が図書室を出てから、軽く30分は経過していた。
竜は視線を足元から由貴に向けると、口を開いて、こう言い切った。
「気のせいだろ」
「……ですよねー」
竜の言葉に由貴はヘラヘラと笑いながら頷くと、また足を進め始めた。その頬が引きつっているように見えたのは気のせいであろうか。竜はいつもの飄々とした態度で一度後ろに視線を向けた後、前を向いて足を踏み出した。
後ろは先が見えないほどに薄暗く、まっすぐな廊下が延々と続いていた。
その奥に見えるプレートに書かれた教室の名前は、図書室。
由貴と竜は一体ドコを歩いていたのだろうか。
最初のコメントを投稿しよう!