ニガサナイ

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 竜は下げていた視線を上げて由貴を見ると、淡々と言葉を発した。 「由貴、お前、今携帯持ってるか?」 「え、携帯? 持ってるけど……」  竜の突然の問いかけに由貴は戸惑いを見せると、竜は窓の近くへと足を進め、ガラスに手を当てて、そこに映った自分を睨み付けた。 「俺らが図書室を出たのは5時前だろ。あれから一時間近く歩いていたとしても、いくらなんでも暗すぎる。とりあえず、一体今が何時なのか確認するのが先だろ」 「そっか……わかった。見てみる」  由貴は竜の話に表情を真剣なものにすると、スラックスの後ろポケットに入れていた携帯を取り出した。スライド式の携帯を手に持ち、ボタンを押して、時間を確認する。 「何時だ?」 「…………」 「……由貴?」  携帯の画面を見たまま、黙り込んでしまった由貴に竜は怪訝な表情を向けると、一歩近付いた。由貴は竜の声に、ゆっくりと視線を上げると泣き笑いのような複雑な表情をして、口を開いた。 「竜……これ本格的にやべえかも」 「は? 何言ってんだよ」  由貴の言葉に竜が眉を顰めると、由貴は右手に握っている携帯を強く握り締めながら、口を開いた。 「変わってねえんだ……」 「変わって、ない?」 「まだ……4時44分のままなんだって」  由貴がそう言い終わると、竜は目を見開いて、由貴が握っている携帯を奪い取り、画面に視線を下ろした。  そこに表示されている時間は、確かに4時44分。  図書室を出た時間と寸分の変わりもなかった。 「……マジかよ」  竜はここに来て初めて動揺を露わにした。右手に持つ携帯を握る手が小さく震えた。
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