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「なあ、由貴」
「んー? なんですかい?」
由貴は竜の声に反応して下に向けていた視線を上げて竜へと移す。竜は由貴の方を見るわけでもなく、前を見たまま、淡々と話を続けた。
「この階、俺ら以外に誰もいなかったよな」
「へ? な、なーに言ってんの竜ちんってば。さっき見たとき誰もいなかったじゃん」
由貴は竜の言葉に、ギクリと顔を強ばらせると乾いた笑いをもらしながら、やだなーと竜に返事をした。二人は歩きながら、話を続ける。
「気のせいかもしんねえけど……この階に来たときから、多分、誰かが俺らの後をつけてる」
「た、たちの悪いジョーダンはおよしよ、竜ちーん! ……気の、せいじゃねえ?」
「さあな…………でも、足音が」
「へ?」
「足音が、一つ多い気がすんだよ」
「…………」
由貴は竜の言葉に口を閉ざした。二人は歩みを止めない。複数の足音が廊下に響く。由貴は視線を竜の横顔に向けると、竜の表情は少なからず強張っていた。
竜が怖がらせようとくだらない冗談を言うとも思えない。むしろ、竜はそういう冗談があまり好きではなかった。
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