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「でも、実際にあの桜の下で人、死んでるし……」
呆れたような表情をしている竜を見ていた健太が、そう呟くと、竜はゆっくりと視線を健太へ戻して、不機嫌そうな面持ちで口を開いた。
「だったらなんだよ。その血を桜の木が吸ったっつーのかよ。よくもまあ、面白おかしく解釈したもんだな」
冷たい視線と棘のある言い方に健太は顔を強ばらせる。竜に言うべき話ではなかった。六月、同じクラスの女子生徒が噂の桜の木の傍で死んでいた。そして、その傍らに佇み、犯人の容疑をかけられた竜。そのことを、「七不思議の始まり」などと言われ、むし返されたことに、竜が気分を悪くするのも当然である。
健太は、なんかごめんな、と申し訳無さそうに眉を下げて謝った。それと同時に二時間目が始まるチャイムが教室中に響き渡った。間延びした、どこか寂しさを感じさせる音。
竜は健太の様子に、言い過ぎたと思ったのか、溜め息をつくと、視線を健太に向けて、返事をした。
「別に、そこまで気にしてねえから……ほら、とっとと席に戻れよ」
「あ、おお」
竜の言葉に健太は、怒らせたわけではないのだとわかると、安堵の表情を浮かべて、自分の席へと戻って行った。
その後ろ姿を、ぼんやりと竜は眺めた後、視線を窓の外へと向ける。脳裏に浮かぶのは、二カ月前の光景。
あの事件から、すでに二カ月が経ち、学校内から死者と殺人犯を出してしまったというのに、生徒達はそれまでと変わらない生活をしていた。むしろ、その話を「七不思議」に結びつけ、興味本位で話をむし返していた。
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