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午前中までの補修終了のチャイムが教室内に鳴り響くと、生徒達は一斉にざわつき始めた。帰りにどこかに寄って行こう、部活に行かなくては。そういった暢気な会話があちこちでやり取りされている。
まだ席に座っている竜が、机の横にかけていた鞄に手を伸ばしたとき、教室の前側のドアが勢いよく開き、一人の男子生徒が顔を出した。
黒髪短髪、やや細い目にだらしなく着崩した制服。決して男前と言い切れる容姿ではないが、どこか人の目を惹きつけるものがあった。それは、活き活きとした表情であろうか。この男子生徒の名は、岡本由貴。
由貴は教室内をキョロキョロと見渡すと、目当ての人物を見つけて、遠慮無く自分のクラスではない教室に入って来た。
「竜ー! 早く帰ろうぜ!」
にんまり、と笑いながら声をかけてきた由貴を竜は、やや鬱陶しそうな表情を浮かべて見ると、机の上を片付け、席を立った。
「デケエ声で人の名前呼ぶな」
「小せえ声だと呼ばれてんのかわかんねーじゃん」
「お前の声は小さくして、やっと人並みの音量なんだよ」
「どんだけ声デケエんだよ俺!?」
鬱陶しそうな表情を浮かべながらも、竜は由貴の相手をしながら、教室を出て行った。先ほど竜と話をしていた健太は部活のため、すでに教室にはいなかった。
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