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私は御崎君に教えるために説明に取り掛かる。緊張するかと思っていた説明も案外落ち着いてできそうな気がする。
「で、インシュロックを右手でも左手でもいいから利き手の小指にかけて、ジーンズのベルト通しに引っ掛けていくように通します」
口で長々と説明するよりも私が先に手本を見せた。口頭で全てを説明するのが苦手ってのもあるし、見たほうが早くできる可能性もあるから。彼はスゴイ事に一発で覚えたようで、直ぐにできるようになった!!私の思惑通り、口頭で説明するより手本を見せたほうが早いようだ。
「スゴイ上手いじゃない!」
「いえいえ、解りやすく教えていただいたので出来ただけですよ」
褒めると彼はニッコリ微笑み返してくれた。穏やかで柔らかい雰囲気の微笑を浮かべる彼を、私はただの19歳とは思えなかった。
彼の微笑には、どこと無く陰があるような気がした。
一瞬のことではあったけど、気になって仕方ない。
御崎君のことを私は、もっと知りたいと思うようになっていた。
旦那や子供がいるのにもかかわらず、全てを忘れてしまったかのように、彼だけが気になり知りたいという欲望にとらわれ始めている。心に芽生えた、未知なる感覚に戸惑いを覚えながらも、御崎君に話しかける。
「謙遜しなくていいのに。教えても伝わらない人もいるから、スゴイ上手いほうだと思うよ。」
「そうですか?ありがとうございます。」
さっきの陰のある感じの笑顔とは違い満面の笑顔だ。
私は、彼の笑顔に心を奪われそうになる。
というか奪われているかもしれない・・・
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