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その真珠は桜並木の頬を伝い、地面に吸い込まれていった。
「嬉しいよ、春」
そう言って微笑んだ桜並木の笑顔は、今までで一番綺麗で。
そして、───儚い気がした。
何で…?
そう思う暇もなく、目の前の桜並木が霞んでいく。
必死に手を伸ばしても届かなくて。
「桜並木っ」
叫んだ声は、光に飲み込まれていく。
「ありがとう。
ありがとう…春」
もう輪郭しか見えない桜並木がそう囁く声が、何故か鮮明に聞こえた。
そして、その声と同時に。
桜並木が、私を軽く突き飛ばす。
見えないはずなのに。
桜並木が、笑顔を悲しそうに、辛そうに…歪めているのが分かった。
そして
───桜並木は消えた
不思議な空間と、一緒に。
「桜…並、木?」
伸ばした手は、虚しく宙をかく。
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