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しかし、呆然としていたのもつかの間で。
『桜が…』
私の耳は“桜”という言葉に反応して、途端に音を取り戻す。
次第に、周りの会話が耳に入ってきた。
『ひどいわねぇ』
『でも、車が来る瞬間にあの女の子が避けていて良かったわ』
『ほんとに。
運が良かったわね』
運が良かった?
違う。
「桜並木…」
“ありがとう”
桜並木の幻影が、その言葉を口にする。
私は膝から力が抜けて、その場にカクンと座り込んだ。
桜並木の宿っている木が…折れた。
折れてしまった。
でも
───不思議と涙は出なかった。
多分、こうなることが分かってた。
桜並木の、あの、歪んだ笑顔を見た瞬間から。
そして───
桜並木は、私を救ってくれたのだ。
辛そうな顔も。
儚そうな顔も。
全ては、自身の運命に気付いてしまったから。
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