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そんなもこんなも、わたしの仕事は掃除婦だ。仕事から直に来たのだ。当たり前じゃないか。
「いい。まだ時間がある。わたしのアパートに来い。風呂に入れ!」
妹が怒るのも一理あるかもしれない。
確かにわたしの恰好はオノボリサンというよりは、夜逃げしてきた人に見える。
妹に引きずられるようにしてわたしは品川区内の彼女のアパートへ連れていかれたのだった。
(注・目黒駅は品川区にあります。品川駅は品川区にありません)
風呂に入って人心地がつき、旅行用の服に着替えると、ようやくわたしも人間らしく見えるようになった。
「傘は?」
わたしの荷物を確かめていた妹がいった。
「乾期の香港で雨なんか降らないよ。」
わたしはいいかえす。
…実のところわたしは超強烈雨女、まるで妖怪だ。乾期だろうが砂漠だろうがわたしの行く先至るトコロで雨が降る。しかし、その事実には口をつぐんでわたしはバッグを閉めた。
「じゃ、わたしも傘やめとこう。」
妹はそういって自分の荷物から傘を取り出した。
妹はいわゆる中華明星迷だ。やれ、なんとかのコンサートだ、だれそれの映画を見るといっては年に何度も香港へ行っている。
この時期香港で雨など降らないのはわたし以上によく知っているのだ。
しかし、わたしが一緒に行けばどうなるか…
先に謝ってしまおう。
ごめんね。
結局、香港旅行中一日も晴れの日はなかった。正直に告白すれば毎日雨だった。
成田を遥か望む東京の夜空は晴れていた。冬の星座がピカピカ輝いている。わたし達は近年稀な冬の雨にみまわれている香港を未だ知らない。どころか、まだ成田にまでたどり着いていないのである。
本当に出発できるのか?
わたし達はまだ品川区内をうろついていた。
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