(1) 内乱と少年

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周囲の人間が血を見て声をあげる。一斉にその場所が騒がしくなった。悲鳴がやまない。 その中、一人微動だにしない――いや、動くことができない人間がいた。 ヴェンである。 彼は少年と向かい合ったまま固まっていた。表情は恐怖に満ち、嫌な汗が流れ落ちていく。手も小刻みに震えていた。 手と同じく震える唇が精一杯の声を絞り出す。 「ひ、人殺しに抵抗なんてねぇのか!」 「お前らに言われたくない。お前らのせいで俺は……」 最後の言葉を濁らせる。 言い表しようのないくらい黒い空気。それは確かに憎悪の念も含んでいた。 少年の銃がカチャリと音をたてる。 そんな微かな音にも怯える男。先程までの威勢なんてこれっぽっちも無くなっていた。今あるのは恐怖と助けてほしいという思い。 戦意のない男に失望したのか、少年は一つ息をつく。 しかし、それで男を見逃すわけはなく、静かに一歩踏み出した。少年の足音は確実に怯える男を追い詰める。 「ひぃ!来るな!」 唯一の縋りものの銃を男は構える。 だが、少年は止まらない。 「止まれぇ!」 追い詰められた男の銃が火をふく。 恐怖で的が合わなかったとはいえ、その弾は少年の左腕を掠めた。それでも立ち止まらない少年に、とにかくと男は撃つ。 「…うざいよ」 足を、頬を、弾が掠めていくなか、少年はつぶやく。 そして音もなく引き金をひく。パンという渇いた音と同時に、的確に男の肩と右足を弾が貫いた。 醜い悲鳴と共に男が倒れる。 「た、助けて…」 痛みに顔を歪めながら男は命請いをする。 彼に恥なんてなかった。心にあるのは死にたくないという本心だけ。 「謝るから…もうこんなことしねぇから、命だけは…」 「……一つ聞きたいことがある」 男を無視し、少年は問いかける。 「ドーバという男を知っているな?」 「へ?ド、ドーバって…あのドーバ将軍のこと…か?」 「今どこにいる」 少年の奇妙な質問に男は頭をあげた。 ドーバとは、ルガニア国の重臣の人物名だった。地位は将軍。現在の軍事権はこの男が握っているといっても過言ではない。争い好きな狂将軍と、他国でも有名な男だった。 ただ、何故少年がドーバについて聞いてくるのか、男には理解できなかった。
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