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「チッ、こんだけかよ」
「でも、ないよりはマシだろ」
「確かに」
手に取ったお金を数え、無造作にポケットへ突っ込んだ。
少年は悔しさにぐっと唇を噛む。だが、これでもう追われないことに安心した気持ちも同時に生まれた。
しかし、その安堵を打ち砕くように、腕を握る男がにやりと笑う。
「…にしてもお前、ホントに女みてぇだな。少し付き合え」
……。
…………今、何と言った?
少年は掴まれた状態のままフリーズした。状況把握に時間がかかった。
もう一人の男も呆れた顔で相方を見ている。
「…おい?」
「あ?」
「頭、大丈夫か?」
その言葉に、少年を掴む男はキッと相方を睨みつけた。
違うとでも言いたいのだろうか?しかし、明らかにおかしいのは睨む男の方で。
「…物好きだな、お前」
「いいんだよ、別に」
だが、相方は呆れたように言うだけで止める様子はなかった。
どうやら周知の事実らしい。
反対する者もいなくなったので、再び男は少年に目を向けた。
「お前のせいで雨でずぶ濡れになったんだ。ちょっと相手してもらおうか?」
気持ちの悪い笑顔。
少年は顔に恐怖の色を浮かべ暴れた。首を必死に横に振り、掴まれているにも関わらず体をじたばたさせる。
「暴れんじゃねぇ!」
「――っ!」
ダンッと、壁に背中を打ち付けられた。急な衝撃に、一瞬息が詰まる。
「や…やだ!助けて!」
少年の悲痛な声が路地に響く。
だが、その声は誰にも届かない。誰も助けに来てくれやしない。
「無駄だって」
――だってお前は邪魔な人間だから。
男のその言葉に少年の動きが止まる。
その通り。
自分のことを誰も見てくれやしない。いつも邪魔扱いされた。空気と同じ存在だと思った。
自然と流れる涙。
それでもこの村にいるのは、自分を拾って育ててくれた人がいたから。自分の声を聴いてくれて、見てくれた人がいたから。――今はもう、その人もいなくなったけど。
でも、いつか他の人たちも見てくれると信じていたからここに残った。
「誰…か……」
力のない声で呟いてみる。
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