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「あーあ、また隊長に怒られるぞ」
後ろで一部始終を見ていた細身な男が呆れ口調で言った。
気付けば周囲に人が集まって来ていた。騒ぎを聞き付けて、一人二人と。
しかし、見ているだけで近づいてくることはない。ましてや止めようなどと馬鹿な考えを持つ者もいなかった。止めに入れば必ず殺される。みんな自分の命が惜しいがために、遠くから少年に憐れみの視線を送っていた。
その人間たちを冷ややかな目で見ながら、今まで一言も話さなかった色白の男も笑う。
「ヴェンはキレると手に負えないからな。厄介だ」
「うるせーよ、お前ら。いいからこいつを連れてくぞ」
ヴェンと呼ばれた、今まで少年に危害を加えていた男は不機嫌な顔で振り返る。少年を指差して少しめんどくさそうに言った。
その指示に従って、今もうずくまっている少年に細身な男が近づく。
「お前も、素直についてくればケガなんかせずに済んだのにな」
肩をすくめて声をかける。ただ、そこに感情など入っていなかったが。
男は何の警戒もなく、少年の横にしゃがみこんだ。
しかし、それが間違いだった。
「…腐った大人の表面上だけの同情なんかいらない。虫ずが走る」
奮えあがるくらい低い声。どす黒い殺気が一気に少年から溢れ出る。
そして、直後に鳴り響く乾いた音。
「…え?」
それは男の最期の声だった。
同時に地面へと沈む男の体。そして、みるみるうちに広がる血の池。
「なっ!」
細身の男は頭を撃ち抜かれ、ぴくぴくと痙攣を起こしていた。しかし、それもしばらくすると動かなくなる。
代わりにそこに立っていたのは、泥だらけの服に真っ赤な返り血を浴びた少年。今まで放すことなく握りしめていた銃が硝煙をあげていた。
「てめっ!」
色白の男が血相を変えて少年に近づく。
だが、彼もすぐに地面へと伏せる状態となった。
素早いスピードで額を射ぬかれ、前の男と同じように息絶えた。血溜まりがまた一つ増える。
そんな男を嘲笑いながら、少年が静かに顔をあげる。
漆黒の短髪に髪とおなじ色の瞳。まだ幼さを残した、だけども何にも興味のなさそうな表情。口元だけが、未だ怪しく笑っていた。
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