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恋は人を盲目にする……
そんな言葉をどこかで耳にしたことがある。
浩太郎は、そろそろ日が沈みそうな空を見ながら、何となく考えていた。
三、四ヶ月の付き合いだったろうか。彼女から、つい先ほど別れを切り出された。
冷たいコンクリートに靴底を擦りながら、一人家路を辿る。
……呆気ないよな。
楽しい想い出は沢山あるはずだった。けれど今は、つい先程俯きながら別れ話をした彼女の姿しか思い出すことができない。
悲しい。
悲しいけど、涙は流れてこなかった。
浩太郎は宙ぶらりんになった右手に気が付いて、上着のポケットに手を差し入れた。
終わりなんて、いつもこんなもので。最初の数日は、生活がやけに空っぽな気がして辛いけど、またすぐ元通りになる。
それももうわかってる。
少し経てば、忘れられる。
……恋は盲目だって?
なら、別れる気になった彼女と、忘れようとしてる俺の間にあったものは恋ではないのだろうか?
自分でも気付かない内に小さく舌打ちをして、コンビニのドアをくぐった。
夕飯の弁当を選んで、帰って腹を満たして、あとは寝るだけ。それで、まず一日目が終わる。
浩太郎は不快な冷房から逃げるように適当に弁当を買うと、すぐにコンビニを出て、また自宅へと向かって歩いていった。
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