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翌朝。今日は大学の登校日。
広い教室の窓際から陽が射し込む。陽気の暖かさが、少し早い夏の訪れを告げていた。
「浩太郎~!またフラれたんだって!?」
そう言って近付いてきたのは、高校からの友人、川嶋清則(カワシマ キヨノリ)だ。
「うるせー。人が傷ついてんのに無神経に叫びやがってよ」
浩太郎は迷惑そうな表情を作ると、清則の脇腹に軽くパンチした。
しかし実際は、こうやって友人に茶化されるくらいの方が、精神的には落ち着く。
一人悶々と考えるよりは、フラれた、という事実が軽いもののように思えてくる。
「だってさ。彼女、涼子ちゃんだっけ?かなりお前にホの字だったじゃんか」
「ホの字って、死語だろ。てか、今回に始まったことじゃねぇし」
女の方から寄って来て、女の方から去って行く。浩太郎の交際はいつも決まってそのパターンだった。
「でも今度こそ、続くと思ってたんだけどなぁ」
浩太郎自身、そう思っていた。
涼子の熱烈なアピールで始まった交際。最初のうちは煩わしく思うこともあったが、甘えて来る涼子を次第に可愛らしく思えるようになった。
涼子がもっと側にいてくれたなら、きっとどんどん惹かれていったに違いない。
「まぁ、そんなもんだよ」
「また、あっさりしてるよなぁ……浩太郎は」
もう数日経てば寂しさはなくなる。今はただ、流れに逆らわずにいるだけ。
極力、何も考えないようにして時間を過ごした。
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