1、始マリノ鐘

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退屈な講義が終わると、浩太郎と清則は少しの時間を構内で潰した後、近場の居酒屋に行くことにした。 清則は“浩太郎・失恋慰安会”と称した。口に出せばまた浩太郎に小突かれるので、それは心の中にとどめておく。 「清んトコは、うまくやってんの?」 「え?うん、まぁ相変わらずかな」 早い時間から、店内は賑わっている。二人はカウンター席に腰を落ち着けると、何気なく会話を始めた。 清則は少し照れ笑いしながら、ジョッキを傾ける。 清則には、高校時代からの恋人がいる。もう三年の付き合いになるだろう。 「お前ら、仲良いよなぁ」 「いや、喧嘩ばっかりだって」 「まぁた、よく言うよ。いっつも一緒にいるだろ」 浩太郎が清則とどこか出掛ける時、清則の彼女も連れ立つことは少なくなかった。 浩太郎も恋人がいる期間は一緒に誘ったりするから、それに関して抵抗は一切ない。 「うん。実際喧嘩しても、仲直りは早いかな。大抵は俺が折れるんだけどね」 困ったように笑うその表情が、なんとも幸せそうにも見える。 「それが上手くいく秘訣か。まぁ俺は……実際女と喧嘩なんて、したことないかもな」 浩太郎はお通しを箸でつつきながら、呟いた。
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