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手形
残業で帰りが遅くなってしまった。
帰り道に学校の横を通るんだが、いつもの時間だと野球部が照明つけて練習を頑張ってるが、今日はさすがにもういない。
夜の学校てのは怖いもんだ。
怖いからこそ意識しすぎないようになんとなく見ていた。
すると、中に誰かいることに気づいた。
守衛さんの見回りかな? とも思ったが、どうも違う。懐中電灯をつけてないし、足取りがふらふらしている。
髪が長い…女?
窓と窓の間の壁に入って見えなくなってしまった。
いくら待っても出てこない。
「ま、いっか」とわざわざ声に出して歩き出した。
もう一度振り返ってみる。
やはり出てきていない…が、角度が変わったので見えてきた。
さっきから女はほんの少しだけ顔を出して、ずっとこっちを見ていたらしい。
目が合ってしまった。
とたんに俺は弾かれたように走り出した。
「何を焦ってるんだ、落ち着けよ俺」と思う冷静な気持ちもあったが、足は止まることはなかった。
人通りの多いところに出てやっと立ち止まり、息を荒くしていると、知り合いが通りかかって言った。
「なんか背中汚れてるけど」
手形がついていて、指は六本だった。
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