ー明治32年ー  横須賀

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ワタクシがあの方と初めてお会いしましたのは、大仏(大仏南の門今熊の道)での事でございました。 その頃は既に大獄で父が亡くなっておりまして、京都四条の裏通りに借家して侘びしく暮らして居りましたのですが 米商のお菊と言ふ方から請われて、母は末の妹の君江と共に大仏まで留守居働きの為引き移りました。 ワタクシはと言ふと、お菊の世話で七条新地の扇岩といふ旅宿に働きに出ておりました。 ある時、母が一家の不幸や身の上話をいたしました所 お前の娘を私にくれんか、さすれば、及ばずながら力になってやろう といふ言葉を仰ってくれたのが良馬でございました。 元々、一度二度良馬とは顔を会わせておりましたので、それで心が動いたのでしゃう 大仏騒動があった時でしたので元治元年の事でございます。
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