みゆき座

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銀座の街をぶらぶらし、夕方になった頃、小さな劇場があった。忘れもしない、みゆき座。妹と一緒に何となく入って、芝居を観た記憶がある。本当は大きな劇場でやっている舞台が観たかったのだが、料金が高すぎて諦め、二千円で観られる芝居にしたのだ。それは悲惨な体験だった。三人の役者がフランスの何とかいう劇作家の芝居をしているのだが、客席にも私達二人を入れて三人しかいないのである。そう、私達以外は一人しか客はいないのだった。しかも劇の題名は「女中達」二人の姉妹の話である。やたら理屈っぽい退屈な芝居で、途中で外に出ようとしたのだが、そうすると客は一人しかいなくなる。変な気を使い、最後まで我慢して芝居を観た。見終わった私達は、絶望のどん底に叩き落とされたような気分になった。こんな思いをさせられた芝居は観た事が無い。「女中達」は、今でも私達姉妹の語りぐさになっている。そういう意味では、貴重な体験をしたわけである。あの時の芝居は、死にたくなった。あまりに酷い気分になったので、そのまま家には帰れず、私の知り合いが勤めている、しゃぶしゃぶの店に行った。
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