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爽やかな風吹く今日は雲一つない晴天。暖かい日の光が差し込むここは体育館で、新年度の行事発表などを行っている全校集会の真っ最中。
入学式は一週間に終わり、真新しい制服に袖を通した期待に胸膨らませている一年生は真面目に話を聞いているように見えるけど、退屈そうな上級生達と同じように欠伸をしている生徒がちらほら、と。
それもそのはず、今は壇上から聞こえる学園長の絶好調な一人語りが聞こえているだけで、その声は眠りを誘う子守唄のようで……このまま夢の世界へ旅立てたら幸せだろうと思ってしまう。
「……ひろ」
どこからか聞こえる囁くような声と共に僕の肩を揺すっていく感触がある。
「真尋、起きろ」
その声に、ゆっくりと覚醒していく意識が聞き慣れた声を感じ、ぼやけていた視界に誰かの顔を飛び込んできた。
「……真尋、寝てるのか?」
片目が隠れてしまうほど長い前髪に、切れ長の瞳。男前と呼んでも過言ではない顔立ちが呆れたように小さく息を吐いていくけど、その仕草も絵になるけど、それでも僕の肩を揺すっている辺り律儀な性格だと思う。
この呆れ顔で男前は、僕の幼なじみで親友でもある久遠時涼(くおんじりょう)。
モデル顔負けのスタイルと一八〇を超える長身でかなり人気があるのだけど、本人は無関心もいいところ。あまりに女子に興味を示さないので『アッチ系疑惑』まで浮上し、その相手が僕ではないかと噂された事もあった。あのときは酷い目にあったけど、涼が珍しく感情を露にして喧嘩寸前までなったのは後に先にもあれ一度きりだろう。
と、馬鹿な事を考えてないで呼ばれているって何だろう?
何を言われているのか分からない僕に苦笑しながら涼が指さしている方に顔を向けると――
「高等部二年二組、神前真尋(かんざきまひろ)! さっさと壇上に上がらんかっ」
額に青筋を浮かべた女性教諭がこちらを鬼のような形相で睨んでいた。
「な、なんで、僕呼ばれてるの?」
「……いいから早く行け。池上女史に殺されるぞ」
肩をポンっと叩き、小声で「頑張れよ」とエールを送ってくる涼。
その間も池上先生――池上紀美子女史、四〇歳。現在彼氏募集中――がマイク片手に言いたい放題叫び、教頭等に取り押さえられていた。
「あっ、うん……」
状況を未だに理解出来ていない僕は促されるままに、周囲の視線に晒されながら壇上へと向かった。
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