第一話:突然、お姫様?

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 壇上へと上がった僕はそこで不思議な光景を目にする事になった。 「ふうっ……やっと来たわね、まーちゃん」  先ほどまで壇上で話していたはずの学園長の姿はなく、そこには背が高く綺麗な女子生徒が優雅にポーズを決めて立っていた。 「まーちゃん、居眠りはよくないわよ」  微笑みながら僕に近づき、小声で耳打ちする長身の女子生徒は「でも、私も眠いの」と、おどけた表情で小さく舌を出した。 「ごめんね、なつ姉」 「今は『生徒会長』よ、まーちゃん」  人差し指をチッチッと振りながら可愛くウインクして抗議する生徒会長様。  この人は高等部三年の美影奈津紀(みかげなつき)。桜乃華学園中等部と高等部を統括する総合生徒会執行部で生徒会長を務める人物である。  家が隣同士で小さい頃から一緒の幼なじみで、艶のある綺麗な黒髪と整った目鼻立ち、血色のいい色気のある唇。身長一七〇のスタイル抜群で容姿端麗、成績優秀と完璧に近い人だけど、思い付いた事は即行動と言う無鉄砲なところもある。それは子供の頃からまったく変わっていないのだけど、誰よりも強くて優しい一面を僕は知っている。だからこそ、男女問わず人気があり、学園のマドンナと呼ばれる存在までになっているのだと思う。  でも、かなりのトラブルメーカーである事も周知の事実となっているけどね。 「では、主役が来ましたので、これより桜華の儀を行います」  高らかにそう宣言したなつ姉は、いきなり僕の手を掴むと壇上の中央へと歩み出した。 「えっ、ちょ――な、なつ姉?」 「いいから黙ってついてくるの。男の子がグダグダ言っちゃダメ」  妙な迫力に思わず「はい」と返事をしてしまった僕を、なつ姉は嬉しそうに手を引いて頷いていたけど、そこで一つ疑問になる単語があった。  ……『桜華の儀』って、もしかして? 「今年度の桜乃姫は……じゃーん! 高等部二年二組、神前真尋君でーすっ」 「ふえ……?」  突然の場内から湧き起こったどよめきに、なつ姉の言っている意味を理解したくても邪魔されていた。
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