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何がどうなって、どうしたって?
いや、まずは落ち着くんだ。そう落ち着いて考えれば、きっと答えが出来てくるはずだぞ、僕。
私立桜乃華学園(おうのかがくえん)では毎年高等部の二年女子から『桜乃姫』を選ぶのが、学園創立時から代々続く伝統行事である。
桜乃姫はこの地方に伝わる伝説の一つ『桜乃姫伝説』から来ているもので、その昔大きな戦が続く中で、多くの人々が亡くなっていくのを見つめ続けていたお姫様が、悲しみのあまり桜の下で泣き続けていた。その涙が桜に奇跡を与え、季節はずれの花を咲かせる事になり、その桜を見た人々は自分達の行いを恥じて戦を止めたと言う伝説である。
その伝説を元に、『桜の下で生徒同士が争いもなく、学園が未来永劫続くように』と言う信念をモットーに、毎年総合生徒執行部会が生徒からのアンケートや人気投票などを参考にして選出した女子生徒が『桜乃姫』となり、その年の学園行事に参加して華を添える、いわゆるマスコット的な存在となる。
そんな桜乃姫が誰になったと……?
色々と思い出していたら、いつの間にか拍手も止んで辺りは静まり返っていた。
全校生徒がいるはずなのにこの上ない静寂に包まれた体育館の中――
「はいっ、注目!」
一際大きな声が更なる静寂をもたらし、その声の主は悠然とマイク片手に壇上を前へ歩み出た。
「今年は私立桜乃華学園は創立一〇〇周年のお祝いもあり、学園行事が通常の年より多くなります。そこで、毎年恒例の桜乃姫も今年は少し趣向を変えようと思います!」
生徒会長、美影奈津紀の声が静寂を壊し、その波紋は体育館を包み込んでいく。
そんな俄かに騒がしくなった体育館内を見渡し、これ以上ないくらいに不適な笑みを浮かべているなつ姉が腰に手を当てて胸を逸らし、二つの双丘は優雅に揺れていた。
……き、危険だ。
あの悪魔をも手玉に取るようなあくどい顔をするときは絶対に何か企んでるときである。素直に言葉だけを信じては絶対に後悔するのを僕は子供の頃から何度も体験しているのだ。
そんな僕の考察も分かるはずもない夏姉は、凛とした声でまた話し始めた。
「そこで、今年度は桜乃姫は男子にしてみました。彼――神前真尋君には『桜乃姫』として一年間振舞ってもらいます」
と、そこで一息入れるようにマイクを口元から離したなつ姉が僕に笑い掛ける。
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