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「中矢、座れ」
二つに畳んである出席カードを教壇の上で広げながら山頼は窓際のロッカーの上に未だ座っている中矢に注意をした。
「日直は?」
山頼が教室全体を見回しながら言った。
眼鏡のレンズの下にある、大きな眼がギョロギョロしている。
「はいー、私ですう」
後ろから3番目の列に座っているショートヘアの女子が面倒臭そうに立ち上がった。
黒板の日直の名前の闌に羽柴美和と書き、先生から渡された日直の原稿をかったるい口調で読み始めた。
その間、自分の恐怖心はどんどん煽られていく。 「先生からの話」の時に、先程ダッシュして騒音を立てたのが誰だか、90%の確率で聞くだろうから。
恐れている事が起きるまでの時間をおくというのは、残酷な事である。 時間と共に不安をつのらせる位なら、むしろその場でバッと早めに終わらせてもらった方が良い。
「先生からの話です」
あれこれ考えている内に、とうとうその恐怖の時間がやってきた。
緊張しているせいで手が汗ばんでいる。
視点を山頼に合わせるのは嫌だっ為、山頼の髪の毛スレスレの辺りに目を向けた。
「さて」
冷や汗が出そうな気がした。
「今日は会議があるので掃除はありません」
安心するのはまだ早い。
どうしようものか頭をフル回転させてみるものの、良い考えは何一つとして見つからなかった。
こうなったらアレしかない。
後頭部を強く意識しながら話をしている最中の山頼アツシにしっかり焦点を合わせる。そして、「こころのめ」を開く。
一気に脳内の回路という回路が山頼アツシの脳内にアクセスしていく。 ぐるぐると心地の悪い感覚が自分を支配した。
「今日の日程は…」
アツシの「こころのこえ」が聞こえた。相当醜い声だ。この人間はあまり良い人間ではないな、と思った。
さっさと山頼が先程の事を考えていないか探ってみる。 隅々までアクセスしてみると、どうやら先程の事は何一つとして考えていないようだ。
アクセスを切り離す事にした。
まずは後頭部を意識して、深呼吸をする。
そして、自分からして山頼とは対極の位置に意識を向ける。
するとあの心地悪さはすっと消えた。
ほっとした。 自分は、10%という低い確率で助かったのだ――
「では」
「終わりにします」
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