二つの世界

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かったるい。 帰り道と朝の登校の時間は正反対と言っても過言ではない気がする。 慌ただしさとかったるさは対語なのかもしれない。 そんな事を考えながら部活の帰り道を歩いて家路に向かう。 ウェアに汗が染み込み、風によって冷たくなり、ベタつき感が増す。 汗と風の絶妙なハーモニーは最悪で、不快な事この上ない。 「おい冷倉庫君ー」 突然後ろから声をかけられ、自分は鈍く振り向いた。 振り向いたのはほぼ頭だけである。 「ちょっと良い?」 どこかの学校の不良だ。 シャツは勿論ズボンから出している。 中に黒いタンクトップを着ていて、首からジャラジャラとシルバーアクセサリーをかけてニヤついている。何かの形に刈り上げた頭は柄が悪い。 きっとロクな輩ではないだろう。 「冷蔵庫じゃなくて冷夜君だっけ?この前はウチのモンが試合ン時お世話になったねえ」 ポケットから煙草を出しながら刈り上げは言った。 一歩間違えば喧嘩になりかねない奴だ。 しかし警戒をする必要は無い。 大抵こういう輩はしたっぱの、いわゆるパシりだ。 この前の試合というのはおそらく長杜中の事であろう。 ちょっとぶつかった位で絡んできたのでボコッてやったのだ。 自分で言うのはおかしいが、自分は運動神経と比例してか喧嘩が相当強い。 「悪いのはアンタントコじゃね?」 自信たっぷりで言った。 悪いがこの刈り上げは然程強くなさそうだ。 普段から部活をサボっているのだろうか、筋肉が、あまりついていない。 刈り上げは眉間にシワをよせてタバコを口から吐き出し、足でそれを踏みにじった。 「言ってくれるじゃねーかクソ野郎…そんなに死にてえのかよ?」 いやらしくニヤリと微笑を浮かべると、肩から下げている鞄を道端に放り投げ、手と手を組んで音を鳴らし始めた。 喧嘩の合図だろう。 が、自分はビクともしなかった。 知らん、といった調子でそのまま家路に向かって歩き出す。 勿論相手が逆上する事は予測している。
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