日常

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『ありがとうございました!』 そんな言葉を何千、何万回も言っていれば、いい加減意味を失う。 一介のバイトが自分の生活費を稼ぎたいだけなのだから、そんな言葉にいちいち意味を込めていたのでは、気が滅入ってしまう。 排気ガスを撒き散らして、俺の『商売客』は行ってしまった。 自分の持ち場へ戻る時、ふと上を見上げた。 『○○○ガソリンスタンド』…………………… 車社会があってこその仕事場。 だけど、夏は暑い。冬は寒い。 こんな仕事をしてなんのメリットがあるだろうか……… 俺はここの社長になりたい訳でもなく、ましてやこの仕事で独立して行こうなどとは微塵も思っていない。 ただ生活費を稼ぐ為。 その一言に尽きるのだ。 「おーい!青井!こっちこい!」 奥の方から、いきなり怒鳴り声がした。 気だるいのをわざと見せようとトコトコ歩み寄る。 「……………はーい。なんスか?」 「ボケっとしてる暇があんなら手伝え!忙しいのがわかんねぇか!」 この手のタイプには正直うんざりする。良くも言えば『仕事熱心』というやつか…。 「わかりやした。」 ここに働いている以上はやはりここの人間のいう事は聞かなければならない。 「11番よこせ!」 「えーと………11番…11番……。あ………、はい。ありました。」 乱雑に置かれた工具の中からなんとか見つけた。 「次は5番のレンチ!」 ガチャガチャと探り当ててはいるが一向に見つからない。 「………あれ。ないなぁ………。」 「まだか!?」 「………すいません。ちょっと見つかんないッスねぇ………。」 「ここにねぇなら事務所にあんだろ。行ってこい!」 …………まったく。少しは上品に話すことが出来ないのか。 「わかりました。ちょっと見てきます。」 腰をあげてトコトコ歩いていこうとする矢先、 「駆け足!!」 …………まったく。…………もう何もいう事はない。 事務所まではこの修理場から10mくらいしかないが、いちいち怒鳴られるのも面白くない。 走ろう。 自動ドアが開くと、びしょびしょに濡れたシャツがひんやりとした。 「おう。お疲れさん。」 ここの所長が、机の上の紙を見ながら言った。
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