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ザァと耳に心地好い波の音と、それに合わせて薫潮の匂い。
司書が目を開くと其所に広がる一面の海。背後には今回消えた王子の住む城であろう物がそびえ立っていた。
太陽は殆んど海に沈んでいて、辺りは暗くなりつつある。司書は一切の感情を王子へと切り換えて物語を紡ぎに城へ入って行った。
城へ入ると心配顔の家臣と人魚姫の出迎え。声のない人魚姫は身振り手振りで心配と安堵を伝えてくる。
「済まなかった、少し外の空気が吸いたくてね」
目を潤ませる人魚姫の頭を撫でながら周りの家臣達へ仕事に戻る様に指図する。
――読んだ限りではまだ王子が勘違いをする前だった。
司書は手近な執事を呼びとめた。
「明日また私を助けた女性を探しに浜へ出る。朝食は何時もより早めに用意してくれ。」
「畏まりました。」
前を辞す執事を見送りながらチラリと人魚姫を盗み見ると、彼女は酷く悲しそうな色を瞳に讃えていた。
――司書は感情に左右されてはならない。
これはディズニーではなくアンデルセンの童話。この物語の結末では人魚姫は泡となる。
――感情を殺せ。
司書は軽く頭を降って部屋へと己の重い足を運んだ。
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