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明日は流石に無理だが、明後日には式は執り行われるだろう。ならば人魚姫は姉妹の美しい髪と引き換えた短刀を手に入れている頃だ。今日か明日の夜、彼女は自分を殺しに夜中忍び込んでくる。しかし彼女は王子を殺す事が出来ずに…、そんな事を考えているとキィと部屋の蝶番が鳴った。部屋は彼女が来やすい様に既に暗くしてあった為、司書の目は月光を僅かに反射する短刀を容易く見付ける事が出来た。
『王子様…』
声なき声で彼女が嘆いているのを感じた。
『何故、何故私に気付いてくださらなかったのですか…?』
ユラリユラリと体を揺らしながら彼女が近付いてくる。
『気付かれなくとも良かった、私は貴方に愛してもらいたかっただけ…』
ベッドの横で彼女が止まる。
スラリとした銀の短刀を高々と持ち上げる。
だがそれが振り下ろされる事はなく、彼女は踵を返して部屋を去って行ってしまった。
――なんと哀れな娘だろうか…
そう思いつつ彼は眠りに着いた。
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