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翌日は城下に挙式の事を触れ回って過し、夜にはまた人魚姫が短刀を携えて訪ねてきた。
やはり持ち上げるだけで振り下ろされる事のない短刀は、金属音を立てて床に落ちた。それから聞こえてきたのは彼女の鼻をすする音と王子へのひたすらの愛を語る声なき声。司書は王子の代わりにそれらの言葉を胸に刻んだ。――例えそれが物語の完結と共に忘れてしまう感情だったとしても、今この時は彼女の王子への愛を受け入れてあげたかったから。
そのまま夜は明け、結局眠らなかった司書は傍らで泣き疲れて眠る彼女を密かに抱き締めてから先ほどまで横になっていたベッドに彼女を横たえた。このまま消える身で在ろうとも、責めて今だけは夢を見て欲いと願いつつ。
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