まさかのまさか

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  「お前、おれのこと好きだろ」 「まさか」 彼はニヤリと笑った。 表情は一切崩れない。 私もまた、彼をあざ笑うような表情を浮かべる。 彼は友達だ。 良き、良い、友達。フレンド。 それは永久的に続くものであってそうでない。 友情なんていつくずれるかわからない。 たとえば、決裂 たとえば、恋心、とかで。 「そのまさか、なんだよ」 彼は私の横に座りなおして手に持っていたアイスの蓋を開けた。 隣に座った彼の横顔は酷く整っている。 私はその横顔が好きで、今でも彼と友達でいる。 それはたぶん、決して。 恋愛感情ではないだろう。 「自意識過剰」 「なんとでも」 ははっ、と笑ってアイスを一口。 「この寒い中でよく食べられるね」 今は2月。 しかも室内ではない。外だ。 私は身を震わせる。 「ばーっか。 寒いから冷たいモン食べんの。」 意味がわからない、といった風に私は彼を見つめる。 ぱくぱくと口の中に放り込まれるアイス。 抹茶色の、アイス。 それはきっとほんのり苦くて、甘い。 「なに、ほしいの?」 「うん」 「寒いって言ったばっかじゃん」 うん、それでもほしいの。 そういうと彼はやれやれ、といった様子になったかと思えば、ゆっくりと私に近づいてキスをした。 ほんのりと苦くて甘い、抹茶味のキス。 「イヤだった?」 「え……」 ふと彼がそう言った。 その言葉でようやく私は事態を飲み込み、驚く。 キスされたことよりも、自分がイヤだと思わなかったことに、驚いた。 まさか 「…ねえ、イヤだった?」 彼は私を覗き込むように見て、言う。 私はただ自分に自分で驚きながら淡い気持ちを確認するように ゆっくりと、静かに首を横に振った。 end
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