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「優花様ー!!お嬢様どこにいらっしゃるのですかー?」
邸内の庭に響くメイド達の声。
この国の大貴族の東宮家の娘・東宮優花は、その名の通り花のように美しく優しい娘ではあるが、活発でもあった。そのため、今日みたいな天気の良い昼下がりは、フラリといなくなることが少なくはなかった。
「優花はいた?」
大きな声で優花を探しているメイドに後ろから声をかけたのは、東宮家の跡取りである兄の東宮紗輝(サキ)19歳だった。
ダークブラウンの髪は少し短めで、同じ色のキリッとした二重の瞳。肌は白く、スラッとしたいでたち。いわゆる美青年だった。
「紗輝様!!」
メイドは突然現れた紗輝に慌ててお辞儀をした。そして、頭を上げると表情をくもらせて言葉を発した。
「それが、まだ見つけられずにいるのです。最後に中庭にいらっしゃったことは分かっているのですが…」
メイドは申し訳なさそうに紗輝に言うと、紗輝は苦笑した。
「そうか…橘には伝えた?」
「いいえ、橘様から探すようにとのご要請でして…」
橘とは、男性で優花付きのボディーガード兼教育係である。優花を大切に思っており、優花を守るためなら手段を選ばないところもあった。
「橘すら分からないなんて、どこに行ったんだ?」
紗輝はメイドの発言に首を捻りながら、やれやれとため息をついた。
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