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その言葉を聞き重衡は、栞を再び見る。
そして、少し悲しい色を浮かばせた目で栞の瞳を捕らえる。
「私が散ってしまったなら、悲しまれますか。この桜が散るのといずれが先かは知れませんが。」
「えっ。」
「重盛兄上が亡くなったように平家が滅びるのならばきっと私も生きてはいない。」
「そう・・・ですね。」
「桜を惜しむ人はありますが、我らを悲しむ人はいるのでしょうか。」
「いると思います。あなたと関わりのある人とか・・・。」
「十六夜の姫君、あなたは悲しんではくれないのですか?」
「えっ・・・。」
重衡の問いにキョトンとしている栞を見て重衡はフッと笑って口を開く。
「いえ、戯れ事でしたね。十六夜の逢瀬、忘れてくださったほうがいい。」
「いいのですか。」
「・・・えぇ。そんな、悲しそうな顔をなさらないでください。本当に戯れ事ですから。」
「・・・。」
「もう一度、笑ってください。十六夜の姫君は笑ったほうがもっと美しい。」
「重衡・・・。」
重衡は赤くなった栞を見てふと笑った。
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