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時は戦乱。
氷樹林の森いと静かに佇みて、日の沈まぬ夜を迎える頃。
右も左も死体が空向く日元の大地。
世界に白き雪、薄らと積もりて、真白な刻、紡ぎける。
今宵、白夜に叫ぶは呪いの声。
日の沈まぬ夜に響き渡りて、世界揺るがし、女の怨みを空に届けむ。
――く、ぐ、あう……うぐあ、ああああああああっああああああああっああああああああっああああああああっああああああああっああああああああっああああああああっああああああああっああああああああっああああああああっああああああああっああああああああっああああああああっ――
薄紫の小袖を乱し、女のはだけた白い胸に突き刺さりし銀の刃に、沈まぬ太陽の光、宿り。その姿、いと哀れなりける。
――白鬼(びゃっき)ひいっ……き、貴様っ……わらわを……を……許すまじ、貴様等……呪うてくれるわ……ひぐ、あっう…ひ、あっ――
「白鬼とな。わしは神ぞ? 彼の者達は、わしにそなたの命を託し、そなたの部下を八つ裂きにしている最中なり」
苦悶にゆがむ女の表情見下ろし、己我身を神と称する狐、静かに銀の刃を抜き払わん。
――嗚呼……っ……憎々しい……っ……白鬼……春日……庭瀬、美作、小泉……白、夜、やああっ……あ――
掠れ声、白き闇に轟き、破れた障子に紅い血飛沫跳ね、斑尾の紋様刻みける。
女、朱の瞳見開き、手で空を掻き毟り、その美貌を豹変させ、恨み言叫びて容姿を崩しけり。
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