一章の1 庭瀬

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 仙北市国立総合病院理事長の息子。それが、僕の長い長い肩書きだった。  僕はその地位が嫌いでは無かったけれど、格別好きって訳でもない。  名前は庭瀬白羽(にわせしらは)。まるで時代劇に出てくる名前みたいだねと友達には言われているけど、結構気に入ってる。今の名前の付け方は、横文字を漢字に当てたものが主流だから、僕や銀ちゃんの名前は相当、珍しい。  年は銀ちゃんより二つ下。銀ちゃんって言うのは、僕の父さんが勤める病院に三日前に運ばれた患者さんで、高校時代からの親友。  少なくとも、僕はそう思ってる。  最初に出会ったのは彼が高校三年の秋。今から約二年前。枯れ葉が積もる公園で、僕が探していた絵筆を見つけてくれたのがきっかけなんだ。  普通、女の子との出会いなら、それから発展してってそんなシチュエーションなんだけど、生憎、男に興味は無い。ただ、大切な人から貰った、大事な絵筆だったから、後からお礼の意を込めて遊びに誘ったんだ。  思えば、その時起きた事件が僕と彼が最初に解決した事件になる。  話すと長い話になるから、掻い摘んで言うと、ビル火災の現場で中の人を助けて放火犯を見事取り押さえたっていう話。まるで小説の主人公みたいな活躍をした事件。
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