一章の1 庭瀬

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 物語なら当然探し人が眼前に居る。僕は逸る心を抑えて声に振り向いた。 「――あ」  出たのは間抜けな声。それが自分のだと理解したのは凡そ数秒後。  細く研ぎ澄まされた冷たい目線に、些か気後れしながら、僕はその子の次の言葉を待つ。 「最近流行りのナンパ君。此処で何をしているの」  結い上げられたポニーテール。背丈は僕より高い。運動部ならバレーボールや陸上部に所属していそうな女子生徒が静かに聞いてきた。 「ナンパ君って。それは酷いよ。そんな証拠でもあるの?」  眼前の女子生徒は、残念ながら僕の探してる子ではない。 「犠牲者はまだ、出てないみたいだけれど。通して頂ける?」  少し、お嬢様を思い浮かべるような口調で言って、淡い紫色の髪を揺らした彼女は瞼を落とす。  僕は反射的に飛び退いた。いや、何故かそうしないといけない気がしたんだ。それに、女の子と喧嘩はしたくないのが普通だよね。そんなことを自分に言い聞かせてその子を見送る。  さて、帰ろうかな。  振り返る僕の目に開いた裏門が入る。僕は、芽生えた好奇心に任せて校内へ足を進めていた。  見付かれば当然、不法侵入。なにせ、部外者立ち入り禁止の看板が僕を出迎えてくれたんだから。
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