一章の1 庭瀬

5/12
前へ
/320ページ
次へ
 胸のどきどきが止まらない。監視員に見つかっても見つからなくてもこの感覚は抑えられることはない。それをわざと止めようとしている大人達は嫌いだ。  それにしても、さっきの女の子の名前くらい聞いておけば良かった。今更、後悔するけれど、引き返した所で彼女を見つけるのは難しそうだった。  そう言えば、なんで裏門から帰ったかも気になる。あれだけの美人さんだから男子生徒に言い寄られるのが嫌なのか、それとも、お嬢様風の彼女なだけにお迎えの執事やボディーガードを避けて、誰かに会いに行ったとか。  僕は空想が好きだ。なんて言うか母さん譲り。現実主義の医者の息子がって陰口叩かれるけど、そんな母さんに下手ぼれした父さんが悪い。父さんは母さんに育児を任せきり。母さんが僕に空想や妄想の楽しさを教えて遊ぶのは目に見えていた筈だ。  裏庭にある池の脇を通り抜け、校内を視察気分で歩き回る。  見つかったら見つかったでそのとき考えれば済む話。  大抵は適当な理由で誤魔化せる。案外世界は単純なんだ。  改めて校舎を見つめて感嘆する。意外に綺麗な外装をしていた。築何年だろう。建て直した話は聞いたことがない。
/320ページ

最初のコメントを投稿しよう!

65人が本棚に入れています
本棚に追加