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今夜が雨とは聞いていない。明らかに、様子がおかしい。
僕は息を飲み込んで、いきなり歪む空を見ていた。
唐突に金切り声。僕の着ていた上着のポケットで、携帯の着信音が盛大に鳴り響く。
僕はそれで現実に引き戻されたんだ。そう、感じて、何時も入れている右側のポケットから携帯を取り出して開いた。
相手先、真田 銀矢。
「なっ」
僕は、名前に思考が回らなくなる。いや、銀ちゃんは入院中で携帯は使えない筈なんだ。
銀ちゃんは病院を抜け出したんだろうか。まさか、五月さんか白夜の神主が届けたんだろうか。いずれにしても、不可解な連絡人に手が情けなくも震えている。
一向に鳴り止まない携帯の受話器ボタンを押して耳にあてがう。
「も、もしもし。庭瀬です。どちら様でしょう、か」
慌てていて、通話口の喋りが何か違和感を残したけれど関係ない。
誰だよ。そう叫びたいのを我慢して相手の返答を待つ。
「ああ。白羽。もう、遅いわよ。コールは二回がマナーでしょう」
その声を聞きながら、僕の周りの空間は目まぐるしく変わる。いや、聞いていない。聞いてる余裕が無いんだ。僕は息をするのがやっとで、体は勝手に震えていた。
「なんで、五月さん? あのさ、今、大変なんだ」
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