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僕の背中に冷や汗が流れている。銀ちゃんに続いて僕にまで降り懸かるこの異質な現象は、最早、何かの前触れではないかと考えざるを得ない。
奇妙な生き物が、服からはみ出した尻尾を揺らし、細い瞳で見詰めてくる。その手には携帯の画面部分が握られ、生き物の足元には残骸が散らかっていた。そこに携帯の原形はない。
「きかい? また、けったいなもんを食わせおったな」
「自分で食べたんだろ。君はなんなの」
内心で、説明付かない未知の物体に怯えながらも良く言葉が出てきた自分に驚く。兎に角この場から立ち去りたい衝動を抑える。本当は抑える必要なんか無いんだけれど、何故だか、目の前で笑う妙な生物を置き去りには出来なかった。
いや、違う。この半化けした狐に何かをされた可能性もある。
あ――違う。
免疫だ。母さんの血筋が、この奇妙な展開を普通として捕らえているんだ。
改めて、母さんの恐ろしさを痛感した瞬間だ。
「わいか? わいの名前を忘れたんか。お主が付けたんだぞ? 白羽」
返された言葉に、僕は凍り付いた。
どう記憶を手繰っても、半化け狐の姿は存在しない。記憶力ならあるほうなんだ。
間違いない。僕はこいつを知らない。
「本当に何者だよ」
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