一章の2 五月

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 流石に、折り返しの連絡がないことには不安がある。  誰かに様子を見に行かせようかと思うが、暇な人間など居ないのでそれも不可能だった。  まあ、死ぬような少年ではないから。そう言い聞かせて自分を納得させる。ある意味、薄情と言えば薄情な考え方だが、仕事から抜け出す術が無い。  どうやら、私の御先祖が花魁なる魅惑の女だって話だ。昨今、そんな大昔の話を持ち出す白夜の神主も暇と言えば暇なのだと思う。  花魁という響きは、今から五千年以上前、いや、恐らくはもっと昔の話。  私も良くは知らないが、言えるのは現代のお水業を相当えげつなくした世界のトップらしい。  そのお陰か、御先祖様はみんなそう言った職業を生業として生きてきたとあの神主は言って除けた。  小さい頃からこんな職業にだけは絶対に付かないと口にしていたのに、どう言うわけかベテランの粋に達している。 「紫(ゆかり)ちゃん。外に学生さんが来てるよ」 「はあい。今、行きます」  紫と書いてゆかり。これが、私の源氏名。そして、顔パスでこのバーに出入り出来る学生はただひとりだ。  私は、片付けていた食器を並べて、裏口まで出て来る。
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