一章の2 五月

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「さ、五月さんっ。これどうしよう。もって帰れないよおっ」  いきなり縋られて、唖然とする。白羽は背中に黒い奇妙な物体を背負って半泣き状態だった。とりあえず、中に入れる。周りは随時確認。偶に、見回りの警察官が彷徨く路地に直面しているから仕方が無い。 「どうしょうじゃないやろ。諦めんかい」  黒い奇妙な物体が、白羽の背中で喋る。ぬいぐるみかと思っていただけに、私の衝撃は大きかった。 「五月さん――これ、神様なんだ。信じてくれる?」  そっか、神様か。  私は、確かに、歳はとっている。それは認めるが――。 「はあ?」 「だから。神様らしいんだよ。卵から生まれたんだ」  座らせた椅子の上で白羽が茶色の髪の毛を毟り、肘を机に附いた。一緒に乗せていた氷入れの氷が微かに擦れて音を響かせる。  私の口からは呆れた声すら洩れやしない。白羽の話をまじまじ聞いても、私の円眼鏡越しに見える生物が、神様とは思えなかった。  額に手を宛て真剣に呻く。そんな私に神様もどきが耳をひくつかせて言った。何時の間にか、白羽の背中から降りて、机に胡座を掻いている。 「五月は昔からわしのこと信じようとはしなかったからの。別に気にしとらんよ」
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